研究概要 |
北方の森林に生息する動物の特徴である個体数の周期的な変動のメカニズムを解明するために,北海道全体に分布するエゾヤチネズミ225個体群の変動様式を密度依存性に著目して分析した.その結果,個体数の変動は1年遅れと2年遅れの2つの密度依存性によってよく記述され,周期的な変動の形成には2年遅れの密度依存性が重要であることが明らかになった.また,年次的な密度依存性を季節成分に分析することに成功し,1年遅れの密度依存性おいては,冬の密度依存性の方が夏よりも高く,密度依存性の強さに季節間で相関がないこと,2年遅れの密度依存性は夏と冬にほぼ同等に働き,季節間に相関があること,が明らかになった.この結果,1年遅れの密度依存性には繁殖に関わる要因と死亡に関わる要因の少なくとも2つの要因が作用している,2年遅れの密度依存性には死亡に関わる要因が重要である,と考察された.一方,密度依存性には地理的な変異がみられ,北海道においては1年遅れ,2年遅れの密度依存性はともに北東に向かうほど強くなり,周期変動性の地理的な変異(北東に向かうほど周期性が強まる)とよく一致していた.北海道は西の暖流,東の寒流の影響を受けるため,北東に向かうほど寒冷となる.つまり,北東地域ほど密度依存性が強くなる冬が長いため,年次的な密度依存性が強まると考えられ,密依存性の季節成分の分析と地理的変異の分析結果がよく一致した. 個体群間の同調性を分析すると,数年に一度,広い面積にわたって起きる低密度年によって,長期間の同調性が維持されるカップリングと呼ばれる現象の存在が明らかになった.カップリングの頻度が高いほど同調性も高まるが,エゾヤチネズミの周期変動性個体群で観察されている程度の同調性を維持するためには4,5年に1度のカップリングで十分であることがわかった.
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