研究概要 |
昨年までにショウジョウバエの時計遺伝子perの相同配列が,ウリミバエにも存在することを確認した.さらにウェスタンブロッティングにより,per遺伝子がコードする産物蛋白質の発現量が経時的に振動することを明らかにした.この振動はショウジョウバエのPER蛋白の周期振動と類似した.そこで今年度は,昨年までに設計を完了したウリミバエの時計遺伝子perのプライマーを用いて,mRNAの周期的な発現量を定量的PCR法によって一定時間間隔でトレースした.すなわち,LD条件からDD条件に移行し,全暗条件でフリーランニングさせたウリミバエを4時間おきにサンプリングし,頭部よりmRNAを抽出し,per-mRNAの発現量を求めた.その結果,概日周期の短いショート系統では21時間おきに,また概日周期の長いロング系統では30時間おきにper-mRNAの発現ピークが認められた.これは両系統の表現型上の活動リズム周期と一致することから,per遺伝子が関与する時計遺伝子カスケードがウリミバエの概日周期を操作していることを示している.さらに,ショート系統とロング系統の交尾時刻の平均値の差が5時間であることを利用し,ショート系統をロング系統より5時間早い日長周期で飼育し(日長操作区),両集団の生殖隔離の程度を調べた.コントロールとして日長操作を施さないショート系統とロング系統の間では有意な生殖隔離が生じたのに対し,日長操作区ではこの隔離は消滅した.このことはウリミバエにおいて生殖隔離が交尾時刻の違いのみによって引き起こされうることを証明している,したがって,per遺伝子が関与する時計遺伝子群がウリミバエの概日時計を支配し,その多面発現の結果として交尾時刻の違いが生じ,その結果,生殖隔離が生じることが明らかとなった.今後は,この時計遺伝子群のクローニングによる分子遺伝的解析と両系統の諸行動形質の解析を行い,時計遺伝子による生殖隔離機構の全貌について明らかにする.
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