微生物ループは、湖沼や海洋のプランクトン食物網において重要な物質循環系の一つである。しかし、日本に多く存在する流れが速い河川では、これまでプランクトンが生存できないと考えられており、微生物ループの研究は世界的にもほとんどなされて来なかった。河床の石表面に近付く薄い層(厚さ100μm以下)では流速がゼロとなる層(粘性境界層)が存在し、粘性境界層では付着力の弱い生物あるいはプランクトンが生存可能かもしれない。我々は、粘性境界層を含む微生物膜に生存する微生物の採取方法を開発し、粘性境界層中にプランクトン微生物や付着力の弱い微生物が生存し、また微生物ループが機能している可能性を指摘した。さらに、河川細菌の生産は、付着藻類により生産された有機物および外界環境から供給される有機物により支えられていることも示した。 微生物の現存量・組成・活性は、環境要因の微小な変動に大きく影響される。河川では、微生物膜およびその周辺に多くの微生物が生息しており、ここにおける環境測定を行う必要がある。しかし、この測定はミクロのオーダーでの測定であり、従来なされていなかった。本研究では、微小電極を用いて、河川微生物膜の周辺および内部にかけての環境測定を行った。その結果、微生物膜中に生息する付着藻類の現存量と組成により、これらの環境における流速および溶存酸素濃度の鉛直プロファイルが異なることを、世界で初めて明らかにした。また、このような微小環境の測定はこれまで国内では限られた研究者のみ利用可能であったが、本研究で導入したシステムはどの研究者でも利用可能であり、今後の微小環境測定に新たな展開を提供した。さらに、海洋底泥堆積物中の底泥粒子微生物膜において、遺伝子を用いた細菌群集の組成解析を行い、最新の分子生物学的技術が微生物膜に生息する微生物の生態学にも応用が可能になりつつあることを示した。
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