我々は昨年、ポジショナルクローニングにより、メダカの性決定遺伝子DMYを脊椎動物の第二番目の性決定遺伝子として同定することに成功した。本研究では、このDMY遺伝子の機能と作用機構を明らかにすることを目的として計画された。1990年に性決定遺伝子SRY/Sryが同定された哺乳類でも、これまで性決定遺伝子の発現をタンパク質レベルで詳細に解析した研究はない。そこで、初年度の平成14年度は、性分化期のメダカ生殖腺における性決定遺伝子の発現をタンパク質レベルで解析することを計画した。メダカでは、DMYはDMRT1(DMYと同様に、DMドメインをもつ遺伝子)とアミノ酸配列が非常によく似ているために、それぞれを特異的に認識する抗体を作製することはきわめて困難である。しかし、幸いなことにHNI系統のDMYのC末配列には変異があり、このことを利用してDMYに特異的な配列をもっペプチドを合成し、DMRT1タンパク質は認識しないDMYに特異的な抗体を作製することに成功した。この抗体を用いて性分化期のメダカ生殖腺におけるDMYの発現を免疫細胞化学法により解析した。その結果、雌雄差が初めて明らかとなる(遺伝的雌で生殖細胞数が増加する)はステージ38の雄の生殖腺で、DMYタンパク質の発現がはじめて見られることが明らかとなった。従って、DMYはメダカの精巣の決定と分化に重要な役割を果たすことが確認された。 また、性決定遺伝子としてのDMYの種間における共通性について解析した。その結果、メダカにもっとも近縁な種であるハイナンメダカ(Oryzias curvinotus)ではY染色体上にDMYが存在することが明らかになった。しかし、これまでゲノム構造が明らかにされているフグではDMYは存在しないことが判明した。従って、DMYはメダカ種に限られた性決定遺伝子であると推察される。このことは、哺乳類を除く脊椎動物の性決定遺伝子が種により異なることを示唆しており、脊椎動物における性決定機構を考える上できわめて注目されることである。今後、哺乳類以外の脊椎動物でDMYに次ぐ性決定遺伝子の同定が待たれるところである。
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