ザリガニの脱皮に伴う平衡胞感覚情報処理系の再編機構を明らかにする目的で、片側平衡石を実験的に除去したのちに生じる眼柄姿勢の中枢性補償に関わる脳内ニューロンを探索し、形態学的に同定するとともに、その樹状突起膜性質およびシナプス活動が補償の成立と相関してどのように変化するかを生理学的に調査した。今年度は、同時細胞内記録法により、これまでに同定されている前運動性のノンスパイキング介在ニューロンであるNGIの前シナプス経路を構成する3種類の局所性介在ニューロンを同定した。Iニューロンは、NGIと同様に活動電位を発生せず、その脳内位置、電流注入に対する反対側NGIの応答と潜時の短さから、NGIと単シナプス結合をしていると考えられる。平衡石を除去すると、NGIは自発的シナプス電位頻度を変化させるとともに静止電位の変化も示した。この結果は、1)平衡胞感覚ニューロンからの情報がIニューロンを介してNGIに伝えられる、2)Iニューロンは他のニューロンからの入力を集積しNGIに出力するインテグレーターの役割を果たす、等の可能性を示唆する。一方、スパイキング介在ニューロンであるTニューロンは、反対側のNGIとスパイキシグ介在ニューロンを介して興奮性接続をしていた。また、Hニューロンは、同側のNGIとスパイキング介在ニューロンを介して抑制性接続をしていた。この二つのニューロンは平衡胞感覚ニューロンが投射する中大脳外側第一触角ニューロパイルに突起を伸ばしており、平衡感覚入力を受ける可能性がある。また、IニューロンとHニューロンは視覚入力を受けていて、平衡感覚からの情報を統合していると考えられる。以上の結果から、片側平衡石除去後の眼柄姿勢の中枢性補償においては、Iニューロンよりはむしろ、T、Hニューロンなど局所性スパイキングニューロンが、昨年度報告したLニューロンとともに重要な働きを担うと結論された。
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