ザリガニ平衡胞の片側除去に伴う眼柄姿勢の中枢性補償に関わるシナプス機構を明らかにする目的で、眼柄姿勢制御において中心的役割を果たす脳内の同定ノンスパイキング介在ニューロンNGI (Nonspiking Giant Interneuron)の樹状突起膜性質およびシナプス活動が補償過程でどのように変化するかを追跡した。その結果、NGIの膜性質のみならずNGIの前シナプス回路の活動も大きく変化することが判明した。NGIの前シナプス細胞を同定するために、NGIおよびその前シナプス細胞候補に同時細胞内記録法を適用して脳内を探索した。その結果、局在性スパイク発生型介在ニューロンであるLニューロンおよびスパイク非発生型介在ニューロンであるIニューロンが、NGIと単シナプス的に接続することが判明した。その他、T、H、MニューロンなどNGIと多シナプス的に接続する細胞も同定された。これらの細胞は、直接的にスパイク活動に起因すると考えられる不連続なシナプス電位をNGIに引き起こすのみならず、持続的な膜電位変化を生じさせた。この持続的な膜電位変化は、TニューロンなどとNGIとの間にインテグレータ要素が介入することを示唆している。NGIの樹状突起の形態と膜時定数値などから、このインテグレータはNGIに内在的なものではなく、Iニューロンのようなスパイク非発生型ニューロンによって仲介されると考えられる。また、Lニューロンは、中大脳の副嗅覚葉と前大脳に樹状突起を投射する形態的特徴から、平衡胞情報を前大脳へ伝達する働きをすると推定されるのに対し、HニューロンやTニューロンは前大脳・中大脳の広い領域に、また、I、Mニューロンは前大脳のみに突起を投射している形態的特徴から、平衡胞感覚情報および視覚、自己受容覚などを前大脳で統合する働きを持つと予想され、これらが、眼柄姿勢の中枢性補償に関与する可能性が示唆された。
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