研究概要 |
ペプシノゲンには5種類の成分があり、哺乳類では食性の多様化とともに各成分の発現も異なっている。現在ヒトではA, Cの2成分の遺伝子のみが発現し、B, F, Y遺伝子は不活性化している。本年度は霊長類の代表的な3分類群(類人猿、旧世界ザル、新世界ザル)と他の哺乳類での比較解析をおこなった。霊長類のB, F遺伝子は哺乳類から霊長類の分岐時に、Y遺伝子は霊長類進化の過程で旧世界ザル以降に不活性化が起こったことが推測された。またA遺伝子の多様化が旧世界ザル以降急速に進行したことが明らかになった。 コモンマーモセットから単離されたA, C, Y成分と、イヌから単離されたB成分を用いて、基質特異性について解析をおこなった。10残基程度のペプチドを揃え切断部位と切断速度を調べた。成分により特異性に大きな違いが見られた。A成分はサブスタンスP、bFGFなどを含めて広い特異性を示した。P1,P'1位には疎水性アミノ酸が好まれた。C成分はP'1位にアラニンやグリシンのような側鎖の小さいアミノ酸を好みA成分と異なっていた。Y成分はP'1位にリシンのような塩基性アミノ酸を好み、極めて早い分解速度を示した。B成分は他の成分と異なり限られたペプチドの切断しか出来なかった。特異性の解析ではP2位にグリシンがあるときに選択的に切断が起こる結果を示し、特殊なタンパク質やペプチドの切断に関与する酵素であると推測された。これらの解析の結果は、ペプシノゲンの多様な成分はそれぞれ異なる特異性を持ち、効率的な消化をおこなうべく動物の食性に適応して進化してきたことを示している。
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