研究概要 |
大小約20あまりの島々からなる小笠原諸島では、これまでに生物進化の研究が盛んに進められてきた.しかし,それらの多くは父島や母島において行われたものであり、アプローチが困難な無人島域を含む小笠原諸島全域をカバーした集団レベルの進化学的分析は十分には行われていない。本研究は聟島列島や火山列島を初めとする無人島を重点的に調査し、植物相の現状を把握すると共に、小笠原諸島全域を含めた植物分化のパターンとプロセスを解明することを目的とする。 平成14年度は小笠原諸島の北端に位置する聟島列島を中心に調査を行った。聟島列島はかつて野生化したノヤギが増殖したために森林植生の大部分が失われてしまったが、近年ノヤギの駆除が進み、今後の植生回復が期待されている。そこで、ノヤギ駆除直後の聟島・媒島の植物相の現状を把握するための現地調査を行い、出現した維管束植物種のさく葉標本とDNAサンプルを可能な限り収集した。その結果,聟島で105種,媒島で98種の維管束植物種(亜種,変種を含む)が確認された.約10年前の植物相調査結果と比較すると,小笠原固有種数が30〜40%減少し,帰化植物種数が増加していることが明らかとなった.諸島内で分化してきたと考えられる分類群については,外部形態の計測・解析と遺伝的変異の解析が進行中である。 これらの調査に加えて,小笠原諸島の植物相保全のための基礎調査として,これまであまり調査が行われていなかったクマネズミ(移入種)による植物の食害状況調査も実施した.その結果,絶滅危倶種を含む数多くの在来種において,種子・果実・枝・葉などが食害されていることが確認された.島によっては,特定樹種の果実がすべて食い尽くされていることもあり,植物集団の存続や植生回復が妨げられている可能性が示唆された.
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