霊長類における体色変異に関する分子的基盤については、未だ不明の点が多い。本研究では、ヒトを中心としテナガザル・マカクを対象に加え、メラニン合成に関連する遺伝子の多様性を調べ、変異の背景と適応的意義を探ることを目的とする。 類人猿では唯一多様な毛色変異を示すテナガザルについて、メラノコルチン受容体遺伝子とASIP遺伝子の多様性を調べた。材料は過去に収集した試料をもちいた。メラノコルチン受容体遺伝子には大型類人猿に比べテナガザルでは多くの変異が見つかった。ASIP遺伝子については、PCR法で増幅を見なかった。PCR法でASIP遺伝子が他の旧世界ザルにおいて解析可能であったことから、その欠失が疑われた。そこで、サザン法を用い欠失の有無を調べたところ、数10キロベースにわたり欠失していることが示唆された。さらに詳細な解析を進めている。 ヒトについては、これまでにデータを出したアジア・オセアニア集団のメラノコルチン受容体遺伝子変異について、地理的分布と多様性維持機構について検討した。その結果、低緯度地域で見られる変異は同義置換で紫外線による選択圧を受けていること、高緯度地域では非同義置換を含む多型性に富んではいるが中立性を否定するものではなかった。メラノコルチン受容体遺伝子はヒト皮膚色変異を支配する遺伝的背景の候補の1つと考えられた。
|