固体物質の大多数は自発磁化の性質をもたず、その磁気的効果が検討されることはあまりなかった。この研究では生セッコウ、方解石、尿素、グラファイト、水晶、KDP、雲母、正長石など磁石の性質を有さない普通の結晶が、永久磁石レベルの低い磁場で回転・整列することを初めて見出だした。整列は反磁性化率の異方性(Δχ)_<DIA>のために引き起こされるが、現存する膨大な数の物質について、(Δχ)_<DIA>はほとんど測定のままである。そこで微小重力空間に浮遊させた結晶、磁場で回転振動させ(下図)、その周期から従来にない高感度で(Δχ)_<DIA>を検出する方法を開発した。その一方で、(Δχ)_<DIA>がある程度大きい場合には馬蹄形磁石の中に結晶を吊るすだけの単純なシステムでも検出できることを見出した反磁性異方性は、結晶の中の電子の広がりが原因と考えられる。この研究では「個々の結合軌道の電子分布が原因である」とする仮説によって、(Δχ)_<DIA>の測定値を矛盾なく説明した。言うまでもなく固体は化学結合で形成されており、未測定の物質の整列特性をこの仮説で予測することができる。それによるとほとんどの(Δχ)_<DIA>は、上記の2つの測定法で検出できる。 自発磁化を有さない固体が磁場で回転振動する現象は、過去の報告には見られない。磁石の作用は方位磁石が地磁気で回転振動するという直感的な現象によって古くから広く認識され、そのような認識が今日の数々の磁気デバイスを創出する一因となった。今回、同様の回転振動が通常の結晶で観察されたことで、"磁石"以外の固体物質も日常的な磁場強度で活性であるという認識が、今後広がると期待される。反磁性結晶粒子の磁場配向を実用化する試みは、強磁場を前提として進めており、研究対象も一部の物質に限られている。一連の研究の結果(Δχ)_<DIA>の検出や結晶粒子の磁場配向実験が、ほとんどの反磁性物質について、実用的な低磁場で実行できる展望が得られた。なお反磁性結晶に含まれる磁性イオンの寄与を評価した結果、これらのイオンに起因する常磁性磁化率の異方性により、配向に要する磁場強度は、さらに大きく減少することが明らかとなった
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