初年度はフェムト秒パルスレーザーによる光電流インパルス応答計測システムが完成するまでに静的な光励起による蛍光スペクトル測定を行い、以下の成果を得た。 1対の広い量子井戸と狭い量子井戸が広い幅のバリア層によって隔離されている非対称二重量子井戸を周期的に配列した超格子において、バリアー中の高位サブバンド準位であるX1サブバンドを経由した電子輸送により、広い量子井戸から狭い量子井戸の基底量子準位であるΓ1準位に効率的に電子が注入され、同時に広い量子井戸中に生じた正孔を共鳴トンネル効果によって、その準位よりも高位準位に存在する狭い量子井戸中の正孔の基底サブバンド準位に輸送するという超格子構造を設計し、(1)通常、Type-II型となって発光することのない狭い井戸のΓ1基底準位からの発光が効率よく起こることを確認し、通常のGaAs量子井戸では不可能な短波長発光を効率的に起こさせることに成功した。(2)広い量子井戸において長波長の光吸収を行い、それによって生じた光キャリアを狭い量子井戸のサブバンド準位に輸送することにより狭い量子井戸から発光させ、効率的に長波長から短波長への波長変換(アップコンバージョン)を起こす光機能素子を作成することに成功した。 量子井戸薄膜を、それをエピ成長した基盤より剥離し、量子井戸薄膜を巻くことによって量子井戸マイクロチューブを作成し、その井戸内の高位サブバンド準位の振る舞いを測定することに成功した。その結果、通常、Type-II型となる量子井戸においてもマイクロチューブ形成時に生じる1軸性歪みにより、Type-I型への遷移が起こることを発見した。このような量子井戸マイクロチューブは新しい量子構造であり、今後、その性質を研究することは重要となろう。
|