研究概要 |
走査トンネル顕微鏡(STM)のトンネルギャップに異なる波長のレーザ光を照射することにより、超高強度の差周波赤外光を探針直下に発生させ、単一分子の赤外吸収をSTM探針で検出するナノ分解能顕微分光手法(STM-DFG法)の開発を試みた。 1.STM探針による光電場増強(FE)効果の測定:非線形I-V特性に起因して近赤外域光照射に伴いSTMトンネル電流に整流電流が流れることをグラファイト試料で確認した。これより、探針直下の光電場強度は照射光の電場強度の10^3倍(W針)、5×10^2倍(Pt-Ir針)と、非常に大きいことが判明した。 II.差周波赤外光発生の確認:波長半固定のチタンサファイヤレーザと波長可変半導体レーザの2光を、C_<60>薄膜試料とW探針間に同時照射し、これに同期してトンネル電流に現れる変調信号を半導体レーザ波長の関数として測定した結果、C_<60>結晶の分子振動による赤外吸収スペクトルと良く一致するスペクトルが観測された。 III.カーボンナノチューブ(CNT)のFE効果の存在検証:STM探針に有利なCNTでも大きなFE効果が期待されることから、DMFを試料としたラマン散乱測定を行い、CNTに共鳴する633nm光ではCNT添加によりラマン散乱強度が増強されるが、共鳴しない514nm光では増強が観測されないとの予期どおりの結果が得られた。 IV.FE効果のSTM観測:FE効果が起こることが知られているAuナノロッドを試料にして、STM光整流法により個々のAuナノロッドのFE効果を観測する実験を行ったところ期待される結果を得、CNTへの適用の見通しを得た。 V.STM-DFG実験の最適条件の検討:再現性あるSTM-DFG実験を行うためには、照射光のフォーカス強化、短パルス化、設定トンネル電流の増大、探針先端の先鋭化、特殊探針材料(Au,Ag,CNT)の採用、が有効であるとの結論を得た。
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