研究概要 |
表面に飛来するHやDがどのようにSiに吸着し、どのような機構に従って吸着水素原子を引き抜く機構をダイナミックスの観点から解明する。即ち、基本的な水素引き抜き反応は吸着子をDでラベルして、H+D/Si(100)→HD, ABS(abstraction) H+D/Si(100)→D_2,AID(adsorption-induced-desorption) の反応ダイナミックスの解明を以下の要領で行った。 (1)ABS,AID反応で生ずる脱離分子の角度分布測定 現有表面反応装置の質量分析計(QMS)をアパーチャーを介した差動排気チャンバー(14年度製作)に搭載し、サンプルの回転により脱離角度を制御し、脱離HD,及びD2分子の角度分布を測定した。その結果、HDは表面垂直方向にピークを示すが、D_2分子は約20度方向にピークを示した。これは初期の予想と反対となった。しかし、この結果は見かけのものであり、D_2脱離分子の収量は入射角度に大きく依存することがわかった。この入射角度効果を考量して、真の脱離角度分布を求めると、HD,D_2共に表面垂直方向にピークを持つことが判明した。 LEPSポテンシャルを用いて、ABS反応の脱離角度分布のシミュレーションを行った。その結果、脱離ピークは表面垂直方向からみて約20度のSi-D結合方向であることがわかった。この理論的結果は実験と一見矛盾するが、我々が用いているSi(100)表面はダブルドメイン構造を有しているため、実際は異なる2方向の脱離の重ね合わせとなる。シミュレーション結果を基に実験データの解析を行い、真の脱離方向分布を得ることが出来た。 この結果は、15年、16年の春の物理学会、及び16年に行われた米国物理学会にて報告した。 (2)引き抜き用水素原子ビームをチョップし、H+D/Si(100)でのD_2脱離の時間応答を測定した。その結果、温度に依存してビームオフ時にもD_2脱離が観測され、AID反応は速いプロセスと遅いプロセスが存在することを突き止めた。温度依存性の結果からAID反応はD/Si(100)3x1構造の2水素化Si相に関係して起こることを突き止めた。この結果は、現在JCPに投稿中である。
|