バイオスペックルを利用した植物環境ナノ計測システムの開発

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14350029
• 研究機関: 埼玉大学
• 研究代表者: 門野 博史 埼玉大学, 理工学研究科, 助教授 (70204518)
• 研究分担者: ラジャゴパラン ウママヘスワリ 理化学研究所, 脳科学研究チーム, 研究員 (40270706) ; 豊岡 了 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (90019753)
• キーワード: バイオスペックル / スペックル差画像法 / 統計干渉法 / オゾンストレス / 電子的スペックル干渉法 / ヒルベルト変換法

研究概要

植物から発生したレーザスペックルを用いて環境が植物に与える影響の観測手段として次の2つの方法を提案して開発研究を行っている。
1つは植物内部の散乱粒子から発生するランダムに運動するスペックルの動特性に基づいて植物の活性状態を評価する方法であり、スペックル差画像法と呼んでいる。本手法を用いて、植物にオゾンを暴露した際の植物の挙動を観察し、植物がオゾンによる受けるオゾンストレスについてモニタ可能であることを実験により確認した。また定量的な評価を可能とするため、スペックル差画像の局所平均値を調べた。この結果、オゾンに対する耐性の異なる植物間ではっきりと数値的な差異が認められた。
2つ目の手法は植物表面で散乱されたスペックルの特性に基づいて試料の成長速度を計測する手法である。本方法には我々が独自に開発した超高感度干渉計測法である統計干渉法を適用している。植物試料に対して2本の平行なレーザビームを照射することによりこの2つのビーム間における試料の成長による伸びが計測される。本干渉法を適用することにより1秒あたりサブnmから数十nmの成長が実際に観測可能であることを初期の実験により確認した。次に植物に対する環境条件の一つとして、日照量を変えて植物の反応を計測した。この結果、暗黒中での成長速度数nm/secから光照射下の数十nm/secへと数分以内で成長速度が変化していることが明らかになった。このように植物の成長速度を時間分解能1秒で感度サブnmの伸長の計測技術は世界で他に例をみない。
統計干渉法は試料上の1点に関する干渉計測法であるが、2次元観測を可能とする子渉法として電子的スペックル干渉法(ESPI)の適用も試みている。従来は、ESPIでは定量的な測定が困難であったが、CCDカメラを用いて物体の時間的な変化を時間領域での位相解析により高精度に求める方法を新たに提案した。本方法はHilbert変換を用いて位相解析を行うことに特徴がある。現在は、金属やプラスティック片など非生物試料を用いてその有効性を検証する実験を行い、良好な結果を得ている。
今後は、大気汚染の例である光化学スモッグの主要成分であるオゾンを植物に暴露し、これまでに開発した複数の手法を適用することによりその影響のモニタリング等を行っていく予定である。

研究成果

• [文献書誌] Violeta Dimitrova Madjarova, Hirofumi Kadono, Satoru Toyooka: "Dynamic electronic speckle pattern interferometry (DESPI) phase analyses with temporal Hilbert transform"Optics Express. Vol.11, No.6. 617-623 (2003)
• [文献書誌] H.Kadono, G.Takahashi, S.Toyooka: "Monitoring of biological activity of plant using difference-image of biospeckle"Proc. 19th Congress of the International Commission for Optics. 955-956 (2002)
• [文献書誌] 門野博史, 豊岡 了: "スペックル統計干渉法による高精度ひずみ計測"実験力学. 第2巻,第3号. 11-16 (2002)
• [文献書誌] 豊岡 了, 門野博史: "バイオ計測の新しいツール-スペックル干渉法の新展開-"非破壊検査. 51巻,9号. 561-56 (2002)
• [文献書誌] H.Kadono, T.Nakamura, K.Matsui, S.Toyooka: "Monitoring of biological activity and growth of plants using laser speckle techniques"Proc. VII International Conference on Optics within Life science. 53 (2002)