本年度は相分離が期待できる金属-Mott絶縁体転移近傍の物質の局所電子状態を通常の直流バイアスSTMで調べた。試料としてフィリング制御によって金属絶縁体転移を起こすCa_<2-x>Na_xCuO_2Cl_2とバンド幅制御で金属絶縁体転移を起こすNiS_<2-x>Se_xを選んだ。これら両化合物はいずれも良好な劈開性を持ち、表面敏感なSTM測定に適している。測定は低温超高真空STMを用いて4.7Kで行った。Ca_<2-x>Na_xCuO_2Cl_2の劈開面である(001)面のSTM像は、原子像とそれに重畳する数nm^2の広がりを持つ不規則な凹凸から構成されている。STM像の自己相関関数の解析から、この凹凸は完全にランダムに分布しているのではなく、特定の結晶軸([100]軸、もしくは[010]軸)に沿って強い相関があることが解った。また、走査型トンネル分光(STS)測定の結果から、この凹凸は、実際の表面形状に起因するものではなく、局所状態密度の違いを反映したものであることが解った。これらの結果はCa_<2-x>Na_xCuO_2Cl_2において、自己組織的な電子的相分離が起こっていることを強く示唆する。このような自己組織的な構造は測定した全てのNa濃度(0.08<x<0.12)で観測された。 NiS_<2-x>Se_xでは(100)劈開面の原子分解能のSTM像を得ることに初めて成功した。STM像はジグザグのチェーン構造を示しており、カルコゲン2量体の片側の原子が解像されていることに対応する。STS測定を行ったところ、混晶にした試料でも局所状態密度はほぼ一様であり、金属絶縁体転移を示すx〜0.45近傍でのみ状態密度の分布が観測された。この結果はフィリング制御型とバンド幅制御型で金属絶縁体転移近傍の電子状態に違いがあることを示している。 今後、交流バイアスSTMの立ち上げを急ぎ、より絶縁体的な試料での電子状態改造を試みたいと考えている。
|