昨年度に引き続き、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いた強相関電子系の金属絶縁体転移近傍における電子相分離や不均一電子状態の探索と原子分解能実空間電子分光を行った。 昨年、相分離的な電子状態の不均一を発見したCa_<2-x>Na_xCuO_2Cl_2においては、コーネル大学との共同研究によって、この系の超伝導発現組成であるx〜0.1近傍の試料に対して希釈冷凍機を用いた超低温での実験を行い、明確な電荷秩序を発見した。この秩序は通常の電荷密度波とは異なる励起スペクトルをもち、高温超伝導の舞台であるドープされたCuO_2面の示す新奇な電荷秩序と考えらる。この発見は、いわゆる擬ギャップ状態、さらに高温超伝導発現機構に関する有力な情報である。また、詳細な組成依存性の測定を行い、局所状態密度の高い部分がキャリヤドープと共に増加することを明らかにした。このような振る舞いは電子相分離とコンシステントではあるが、相分離と電荷秩序が共存することは考えにくく、電子状態の不均一はドーパントの分布に由来する可能性が否定できないが、その場合はドーパントの遮蔽長が著しく長いと解釈せざるを得ない。いずれの場合も、本系における電子状態の不均一は、モット絶縁体近傍の多数の自由度や相の競合と関連している可能性が高く、さらに広い組成範囲での実験が必要である。 一方、そのほかの強相関電子系では、三次元モット絶縁体であるNiS2にCoやCuをドープすることでキャリヤを導入して金属絶縁体転移近傍に調整した試料に対するSTM実験を開始した。また、高性能熱電材料として注目されているNa_xCoO_2の原子像観察に成功した。 STMの交流化に関しては未だ予備実験の段階であるが、低温STMでの経験から測定の鍵となるユニットの安定化技術に関してノウハウが蓄積されつつあり、完成は近いと考えている。
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