研究概要 |
本研究の目的は,金強磁場下では強磁性金属水素化物(重水素化物)の平衡圧の違いが大きくなる(磁気圧力効果)ことを利用して,水素・重水素分離の能力を向上させる新規な方法を開拓すること,ならびにこのような応用への要となる金属水素(重水素)化物の基礎物性を追求することあった. まず,水素・重水素同位体分離のテーマでは強磁性金属水素(重水素)化物LaCo5H(D)xおよび常磁性金属水素(重水素)LaNi_5H(D)_xを用い,10Tまでの磁場下で同位体分離実験を行った.分離前のガスはH_2:D_2=1:1の組成に調整した.同位体分離は幾つかの運転モードで行った.吸収運転モードのでは,金属にH_2とD_2を吸収させた後に気相中に残ったガスの組成を分析した.その結果,LaCo_5H(D)_xにおいては零磁場よりも10Tでは重水素濃度が数%ほど増大した.一方,LaNi_5H(D)_xを用いた場合には磁場による重水素濃度の増大は見られなかった.明らかに,LaCo_5H(D)_xの強磁性がこの磁場効果に関連していることが分かる.同様な磁場による分離能の向上は放出運転モードでも示された.この結果,金属水素(重水素)を用いた同位体分離にたいして磁場印加が有効であることを示した. 一方,基礎物性の研究でも飛躍的な進歩があった.従来,金属水素化物のように不安定で結晶学的に複雑な物質においては電子構造の直接的な観測は困難であったが,本研究においてコンプトン散乱法を用いてはじめて金属水素化物(PdH_x水素化物ならびにVD_x重水素化物)の電子構造(電子運動量分布,フェルミ面など)を実測した.また,不安定な磁性金属水素化物であるNiH_xの磁性の起因を,その場観測磁気コンプトン散乱により微視的に解明した.これらは,金属水素化物ばかりでなく,広く他の物質にも適用できる新実験法を開拓したことを意味している.
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