約30at%のPdを含むFe-Pd合金は温度変化によってマルテンサイト変態が生じるだけでなく、強磁性材料であり磁場によってもマルテンサイト変態が誘起されることが知られている。従って、温度だけでなく磁場のon/offによっても形状記憶効果を発現させることが可能と考えられており、Ti-Ni合金より高速に駆動できるアクチュエーター材料として期待されている。これらの合金をマイクロマシンのアクチュエーターとして利用する場合、何らかの方法で薄膜化する技術を確立しておくことが必要になる。本研究では、二源スパッタリング装置を用いて組成および構造が制御されたFe-Pd強磁性形状記憶合金薄膜を作製する技術を確立した上で、磁場誘起形状記憶機能を有するマイクロアクチュエーターを形成することを最終的な目標とした。 本年度は、まず2基のマグネトロンによるFeおよびPd単体薄膜の成膜速度を種々のAr圧で測定し、組成制御された薄膜の形成条件を最適化することから始めた。このデータに基づいて種々の組成を有するFe-Pd合金薄膜を石英基板上に成長させ、その結晶構造を評価したところ、これらの薄膜はas-deposited状態ではマルテンサイト変態挙動を示さないことがわかった。ところが、28-32at.%のPdを含むFe-Pd合金薄膜に800℃以上の温度で溶体化熱処理を施すと、室温以上の温度領域でfcc-fctマルテンサイト変態挙動を生じる薄膜が得られることが明らかとなった。また、Pd組成の増加させると、fcc-fctマルテンサイト変態のMs点が低下することも明らかとなった。このfcc-fctマルテンサイト変態は熱弾性的であり、室温でfct相を含む薄膜を基板から剥離すると形状記憶挙動を発現することも確認された。以上のデータは、金属学会において既に発表済みである。
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