研究概要 |
転がり軸受が高速・高荷重で運転されると,軸受温度が上昇し,軸受面での摩擦・摩耗が増大するとともに,焼付やフレーキングなど致命的損傷の発生割合も多くなる.また,高速玉軸受では,特に低荷重の場合,玉の異常滑りによるスッキディングが発生するが,さらに潤滑油不足条件では,スミアリングやボール・エクスカーションによる保持器の損傷も大きな問題となる.これらは,いずれも軌道輪間における転動体の運動と関連しており,転がり軸受の各種損傷,特に超高速玉軸受で問題となる発熱や焼付き現象を解明するためには,玉の三次元運動の把握が必要不可欠である.玉軸受の玉の運動計測については,磁化玉の動きをサーチコイルやホール素子により検出する方法が考案され,種々の計測実験が行われてきた.このうち,サーチコイルによる方法は,簡便であるものの,出力電圧に速度依存性があり,また二次元的情報から玉の三次元的運動を解析・推定する困難さなどの問題がある.これらの問題は,ホール素子を用いた計測手法の開発により大幅に改善されたが,素子を保持器に組み込んで計測を行うため,高速回転における信頼性の問題などで実機への適用が阻まれている.本研究では,実機への適用を容易にするため,高感度ホール素子を用い静止斜交座標系で磁化玉の三次元運動を精度よく計測する手法を確立するとともに,合成荷重下での高速玉軸受の玉の三次元運動状態を測定し,EHL油膜形成状態や摩擦・摩耗状態など転がり軸受の運転性能との関係を究明する.本年度は,アンギュラ玉軸受7209系列の高速試験が可能となるように試験機の大幅な設計変更を行った.また,有限要素解析により磁化玉による磁場を予測し,効果的なホール素子配置や磁気回路の最適設計について検討した.なお,この磁場解析での知見をボールねじの玉の運動計測に適用したところ,必要十分な精度で玉の自転・公転速度の計測が可能となった.
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