研究概要 |
火炎内に生成されるすすの前駆物である多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic hydrocarbon : PAH)の生成過程を解明することを目的に,吸収・発光スペクトル(Excitation Emission Matrix : EEM)法を火炎に適用するための計測システムを構築した.EEM法により高温・高圧下の火炎におけるPAHの計測を行うために参照データとして必要な,高温・高圧下のPAH蒸気のEEMデータを衝撃波管を用いて計測した.多波長で同時に試料を励起するための多色光源としてNd : YAGレーザーとラマンセルにより多色レーザーを構成した.多色レーザー光は衝撃波管に設置した石英窓より入射し,各波長により励起された蛍光は入射方向に対し直角の方向に設置された石英窓を通して分光器へと導かれ,分光計測される.構築した計測システムによりナフタレンとピレンについて圧力1.3MPa,温度800-1200Kの範囲で測定を行った.その結果,本手法による高温・高圧下のPAHの同定・定量計測の可能性を実証した. さらに,同手法の火炎計測における有効性を調べるために,構築したEEM計測システムを大気圧下のn-ブタン定常拡散バーナー火炎に適用し,火炎中の生成化学種からのEEMスペクトルを計測した.励起波長は275nm-417nmの範囲である.火炎中心軸上でバーナー噴口からの距離を変化させ得られたEEMスペクトルでは,いずれの励起波長においても400-500nmの範囲に3-4環程度のPAHによると思われる蛍光が観察された.火炎上流から下流へ行くと,これら蛍光の強度が強まり,ピークを示す波長は長波長側へ移動する.また,噴口近傍では励起波長275nmの場合に340nm付近にナフタレンからと考えられる蛍光を観察することができた.これらの結果により,本手法の火炎計測法としての有効性を示した.
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