研究概要 |
PTC(Positive Temperature Coefficient)素子は,携帯電話やノートパソコンなどの二次電池の過電流保護素子として用いられている。現在使用されているPTC素子は,限流後の過電圧に対しての耐電圧向上,材料の最適組成条件,電極材料や形状の選定など,多くの検討課題がある。本研究では,高電流定格,高制限電圧が期待できるセラミック系PTC素子における高抵抗時の伝導機構の解明および,部分放電が素子に及ぼす影響を検討することを目的として,伝導メカニズムの検討,ならびに各種部分放電統計量の印加電圧に対する変化,耐電圧の厚さ依存性を検討した。さらに,新しい原理の限流素子として,マトリックスに液体あるいはゲル状材料を用い,一方,導電性フィラーには固体導電性粒子を用いるハイブリッドPTC限流素子の提案,原理検証実験を行った。すなわち,回路の短絡時における導電性粒子の蒸発・散開による限流動作および誘電泳動力を用いて導電性粒子を効率よく自動的に電極間に捕捉することで通電状態を繰り返し実現するというスイッチングの原理によるPTC限流素子の提案であり,これの特許出願を行った。 焼成雰囲気比と,フィラー量の異なる6種類のセラミック系PTC素子の抵抗-温度測定,電流-電圧測定の結果よりジャンプ率,復帰抵抗値および転移電圧を比較した。その結果,焼成雰囲気の水素の量が多くなると,ジャンプ率が高く,転移電圧も高くなることがわかった。また,フィラー量が多くなると,転移電圧が低くなることがわかった。また,セラミック系PTC素子の伝導メカニズムには,トンネル電流あるいはイオン導電性ホッピング電流が寄与していると示唆された。さらに,交流を高抵抗状態のPTC素子に印加して,部分放電が発生することを確認した。PTC素子の放電開始瞬時電圧は,抵抗復帰の悪化の基準電圧と一致することがわかった。このことからPTC素子の復帰抵抗の悪化に対して,素子内部の部分放電が影響していることが示された。
|