本研究では、水素化微結晶シリコン(μc-Si:H)薄膜における局在準位を評価するため、また、局在準位の低減を図るために、μc-Si:H薄膜の光吸収スペクトルを共振型光熱ベンディング法(R-PBS)を用いて測定した。フォトンエネルギーが0.7〜1.2eVの領域に観測される光吸収(以下、局在準位吸収)の起源を明らかにするため、以下の実験を行った。 μc-Si:H薄膜の製膜前の反応室真空度と局在準位吸収の大きさとの関係を調べた。真空度が約10^<-3>torrの場合、フォトンエネルギーが1.0eVでの光吸収係数αは〜10^2cm^<-1>であった。これに対し真空度が約10^<-6>torrの場合、αは〜10^1cm^-1であり1桁小さくなることがわかった。一方、μc-Si:H薄膜における光吸収スペクトルを一定光電流法(CPM)を用いて測定し、R-PBSでの結果と比較した。CPMによる光吸収スペクトルでは、フォトンエネルギーが0.7〜1.2eVの領域で局在準位吸収は観測されなかった。以上の実験結果より、μc-Si:H薄膜におけるフォトンエネルギーが0.7〜1.2eVの領域に観測される光吸収は、結晶粒界中に存在する酸素に関連した局在準位に起因していることがわかった。 ヘテロ構造薄膜への共振型光熱ベンディング法の応用をμc-3C-SiC:H薄膜に拡張し、20〜140℃の範囲で試料温度を変化させたところ、フォトンエネルギーが2.2eV以上の領域では光吸収スペクトルの温度係数は正であり、単結晶3C-Sicと同程度であることがわかった。このことから、この領域の光吸収スペクトルは、膜中に存在する3C-SiCの結晶子に起因する間接遷移吸収を反映していることがわかった。一方、光子エネルギーが2.2eV以下の領域にて、不純物による局在準位に起因すると考えられる光吸収の観測に成功した。
|