研究概要 |
酸化物高温超伝導体の結晶は,超伝導性の格子面と絶縁的な格子面が交互に積層することによって極めて強い異方性を有し,特に,これらの格子面に垂直な方向での電流輸送特性は超伝導面同士のジョセブソン弱接合によって支配された固有ジョセフソン効果と呼ばれる現象が発現する。固有ジョセフソン効果を利用した接合デバイスを固有ジョセフソン接合と呼び,高温超伝導体の持つ大きなエネルギーギャップを利用してテラヘルツ帯でも動作可能な高速デバイスとして注目される。本研究では,テラヘルツ波の検出や発振が可能な新しい固体デバイスの開発に必要な高周波特性を明らかにする事を目的として,Bi_2Sr_2CaCu_2O_8及びLa_<2-x>Sr_xCuO_4高温超伝導体単結晶から作製した固有ジョセフソン接合に関して, (1)接合特性の制御方法 (2)固有ジョセフソン接合中の集団的ジョセフソン・ボルテクス運動に与える高周波電磁場の影響 を明らかにすると共にそのテラヘルツ機能性を探った。その結果, (1)に関しては,酸素親和力の大きな不純物元素をイオン注入することにより接合特性を精密に制御する方法を開発した。 (2)に関しては,本研究により開発した永久磁石と小型冷凍機を用いた測定システムを利用してボルテクス流状態を再現性良く制御し,高周波応答を観測することに成功した。これにより,印加した高周波とジョセフソンボルテックスが位相ロックする現象を見出し,印加高周波の周波数とジョセフソン関係式を満たす電圧に明瞭なゼロ交差ステップを得ることに成功した。これは,固有ジョセフソン接合内を伝播する高周波が,運動するジョセフソンボルテックスによって増幅されていることを意味しており,テラヘルツ波の増幅・発振につながる極めて重要な知見である。さらに,ジョセフソンボルテックスの運動方向に沿って周期的なピンニングポテンシャルを導入することで多数のジョセフソン接合にわたってボルテックスが同相同期して運動することを明らかにした。これもまた,固有ジョセフソン接合内のボルテックス運動を利用して電磁波を効率よく発生させる上で極めて重要な成果である。
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