本研究の柱となる以下の二つの研究に関して説明する。 埋込み金属細線を引き出し電極としたエミッタ構造のための研究 今年度は、埋め込み金属細線を引き出し電極としてホットエレクトロントランジスタとして動作させた。構造としては、エミッタを基板側に成長後、電極形成し、再成長によりコレクタ構造を形成する。電極幅は200nmである。 従来のGaAs材料で作製した構造では、ゲート電極パッドとエミッタの間に大きなリーク電流があったので、半絶縁性InP基板を用いると共に、ゲート電極とゲート電極パッド間で金属細線をフリースタンディング状態にして絶縁をはかった。その結果、直流電圧電流特性での飽和特性等の基本的な特性を得た。 しかしながら、現在の構造では、エミッタからゲートへの直接電子注入が抑制できなことから、エミッタを表面に取った新たな構造を発案し特許出願した。 また、引き出し電極形成や電子走行中の散乱を考慮して、InP真性層の高純度化の検証を行った。その結果、AlInAs/InP HEMT構造では、液体窒素温度で11万cm2/Vsの、また電子供給層のSiを取り除いた構造では2次元電子ガスとして22万cm2/Vsの、各々世界最高の移動度を確認し、高純度なInP層が得られていることが確認できた。 金属細線構造をコレクタとした構造の研究 今年度は、結晶成長条件の更なる把握を行った。金属細線埋込み成長では、細線数が少なくなると、細線上埋込み層厚が薄くなる性質を明らかにした。この特性が細線数が少ないときの失敗要因であったことから、細線が1本のみの場合に限定して埋め込み成長を行うことで、1本金属細線をコレクタとしてエミッタ面積0.1μm×0.5μmのInP系ヘテロ接合バイポーラトランジスタを作製し、良好なDC特性を確認した。この面積は、バイポーラトランジスタとして世界最小のエミッタ面積であると信じる。
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