本研究の柱である以下の二項目に関して成果を説明する。 1.埋込み金属細線を引き出し電極としたエミッタ構造のための研究 埋め込み金属細線を引き出し電極としたホットエレクトロントランジスタを作製・動作させ、直流電圧電流特性での飽和特性等の基本的な特性を得た。 さらにエミッタからゲートへの直接電子注入を抑制する新構造を発案(特許出願)し、作製の結果、エミッタ電流に対してゲート電流を数十分の1に抑制できることが確認できた。直流特性から見積もられる伝達コンダクタンスは10mSであった。 また、引き出し電極形成や電子走行中の散乱を考慮して、InP真性層の高純度化の検証を行った。その結果、AlInAs/InP HEMT構造では、液体窒素温度で11万cm^2/Vsの、また電子供給層のSiを取り除いた構造では2次元電子ガスとして22万cm^2/Vsの、各々世界最高の移動度を確認し、高純度なInP層が得られていることが確認できた。 2.金属細線構造をコレクタとした構造の研究 結晶成長条件の更なる把握を行い、金属細線埋込み成長では、細線数が少なくなると、細線上埋込み層厚が薄くなる性質を明らかにした。この特性が細線数が少ないときの失敗要因であったことから、細線が1本のみの場合に限定して埋め込み成長を行うことで、1本金属細線をコレクタとしてエミッタ面積0.1μm×0.5μmのInP系ヘテロ接合バイポーラトランジスタを作製し、良好なDC特性を確認するとともに、世界最小のコレクタ容量を得た。 また電極抵抗に関して、コンタクト抵抗がエミッタで3x10^<-6>Ωcm^2、ベースで2.5x10^<-6>Ωcm^2と低かったことから、電極をパラジウムを使ったAu/Pd/Ti構造に変えることで、エミッタで1x10^<-6>Ωcm^2、ベースで3x10^<-7>Ωcm^2と従来に比べて大幅に改善した。これらの値を組み合わせれば良好な高周波特性が望める。
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