研究概要 |
最新のテクノロジーを利用した斬新な固体地球計測手法である精密制御震源を用いた調和波動地震トモグラフィの地下展開フェイズドアレイの性能実証研究を進めた。本研究に先行する科学研究費の補助により,これまで精密制御震源システムの製作と試験を進めてきた。具体的には精密人工震源の設計・製作(小型試作機やよい1号の製作・室内試験,実証試験用やよい2号の製作と地下設置),弾性波シミュレーションによる性能評価および周波数伝達関数による速度トモグラフィ・インバージョン手法の開発,岩石標本の室内散乱実験,非線形散乱モデルの検討などである。 本研究では,フェイズドアレイの第1段階として,山梨県大月市北方の東京電力・葛野川地下発電所トンネル内にフィールド展開されているやよい2号機の性能実証試験,検証のための資料を得るためのテストフィールドの地球科学計測の実施およびより改良された多項目地球科学観測システムの構築,およびやよい3号機の製作および直達波による速度トモグラフィを行った。精密制御震源法としては既に名古屋大学が淡路島・野島断層近傍の地表に精密制御震源を設置し,連続観測を試みているが,その結果の精度には多くの疑問が残されており,精密制御震源法の最大の長所である,高度の数理処理を可能にする周波数伝達関数の精度はとうてい達成されていない.これの主な原因は地盤と震源の定着の不良である。名大モデルのように風化岩の地表に設置する限り大きな雑音が避けられないのである。そこで我々は,大型トンネル掘削の専門企業と設置方法について共同研究を始め,土被り500m,坑道入り口から3kmという地下深部の砂岩系基盤に定着して試験運転を開始したところ,非常に高いSN比を実現できた。そこで本研究において以下の研究を実行した: (1)震源躯体の応答を観測し,精度と耐久性を確認した。 (2)震源と観測装置の時間精度を高めるために光ケーブルによるデータ通信を開始した。 (3)浅層ボアホールを掘削し,センサーのアレイを形成した(未完成)。 (4)震源の回転1次モーメントを可変にする装置を設計試作し出力可変型のやよい3号を製作した。 (5)点散乱体の線形モデルに対するインバージョンアルゴリズムを作成し試算した。 本研究はこれまでにも前例のない大深度地下でのアレイ観測であるため,当初予期しなかった多くのトラブルに遭遇した。 (1)季節により極度の湿気に見舞われた。これには気密性のある建屋と除湿装置で対応した。 (2)地上で取得したGPS時刻信号伝送ケーブルの引き込みに予定していた工事用鉛直ボアホールが維持不良で使用不能であった。当面は持ち込み時計および上掲の光通信で対応した。しかし長期的には別な対応が必要である。 (3)並行観測を予定しているボアホールひずみ計の設置が未完成である。 (4)やよい3号は製作できたが,調達できる電力に限界があるため,展開できなかった。 これらの問題については検討を進める必要がある。
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