研究概要 |
本研究では,大気-陸面を一括して考える放射伝達モデルを用いて,降水強度,土壌水分,地表面温度に加えて,雲水密度,水蒸気量を取り込み,シミュレーションにより大気変数に感度の高い周波数帯の組み合わせを選び出し,その情報を用いて,降水強度と雲水密度を同時に算出する手法の開発を目指す. まず,大気中での上向きのマイクロ波放射伝達モデルの境界条件を得るために,大気水情報を考慮せずに土壌水分量を求めるアルゴリズムにより,地表面からのマイクロ波放射率と地表面温度を算定する手法を開発した.ここでは,土層におけるマイクロ波放射伝達過程をモデル化し,放射伝達方程式に導入することにより,乾燥地域にも利用可能な土壌水分,植生水分量算定アルゴリズムが提案された.次に,このアルゴリズムをAqua/AMSR-Eデータに適用し,モンゴルでの現地観測サイトにおいて検証したところ,6Gverと10Gverの二種類のアルゴリズムとも土壌水分,植生水分量の推定値が妥当であることが示された.さらに,Aqua/AMSR-Eデータを用いてモンゴル全域での土壌水分マップの作成により,広範囲での土壌水分の変動を捉えることができることが示された. 次に,で大気中でのマイクロ波放射伝達過程に着目し,下向きマイクロ波放射を大気の諸パラメータ(気温・水蒸気鉛直プロファイル,雲底・頂温度,降水の三次元構造,地上での降水強度など)と2003年1月に福井で実施した集中観測実験により一体的に観測し,下向きマイクロ波放射伝達モデルを開発した.さらにこの放射伝達モデルを二つの周波数で記述し,観測マイクロ波放射輝度温度を代入することにより,未知数である降水強度,雲水量を算定するアルゴリズムを開発した.開発された下向きマイクロ波放射伝達モデルを上向きに用いて,境界条件として地表面マイクロ波輝度温度を代入すると,同様のアルゴリズムで衛星による観測輝度温度から降水量と雲水量の算定が可能となり,地球規模での降水観測を実現するための貴重な研究成果を得ることができた.
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