無数の物質が混在する水道水の水質管理を個別物質の分析に頼ることには限界がある。包括的な水質指標となるバイオアッセイ結果が水質管理に活用されることが望まれる。 消毒副生成物を水道水水質の指標とするには、それぞれの特性が異なることから場面に応じた使い分けが必要である。本研究では配水過程を想定し、指標物質としてはMXに着目した。まず、MXの水中での特性を調べる実験を行った。MXは塩素未処理水中および塩素処理水中で経時的に減少した。MXの安定性は水中pHによって大きく異なった。アルカリ域では極めて不安定であり、pHが高くなるほどに安定性は増した。また、塩素を多く注入するほど減少速度は大きくなった。MXの減少には加水分解と塩素分解が影響したものと考えられた。水道水中でもMXはこれらの影響を受ける可能性があるが、減少速度定数からは加水分解の影響が塩素分解より大きいと推定できた。 MXの染色体異常誘発性も形質転換誘発性も加水分解と塩素分解の影響を受けて経時的な減少傾向をみせた。塩素注入量の増加に伴って減少速度が大きくなる点もほぼ同じであった。その傾向はMXの染色体異常誘発性・形質転換誘発性についても確認できた。琵琶湖水の染色体異常誘発性や非二段階形質転換誘発性は塩素処理後速やかに生成し、やがて低減した。形質転換誘発性は逆に増加しづけた。塩素処理水の主要な毒性と推定された染色体異常誘発性の変化傾向にMXは定性・定量的に指標となりうることを示せた。しかし、MXを指標とするには残留塩素条件に注意が必要であることも明らかになった。
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