新しい構造タイプに属する平衡相正20面体準結晶の探索と構造・電子物性の研究

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14350336
• 研究機関: 北海道大学
• 研究代表者: 石政 勉 北海道大学, 大学院・工学研究科, 教授 (10135270)
• 研究分担者: 柏本 史郎 北海道大学, 大学院・工学研究科, 助手 (60329852) ; 松尾 進 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (10023293)
• キーワード: 準結晶 / 正20面体相 / 安定相 / Zn-Se合金 / 電子化合物 / スピングラス

研究概要

昨年度の研究成果に基づいて、新しい構造タイプに属する準結晶の合金探索、形成条件と物性の研究を行った。このタイプの準結晶は、基本クラスターの原子配置に特徴を持つ。すなわち、従来の準結晶で基本となっていると考えられてきたMackay型ともBergman型とも異なる3重シェル構造(Tsai型と呼ぶ)が基本クラスターとなっている。今年度の研究成果を、研究発表リスト中の「Search and Synthesis of New Family of Quasicrystals」に詳述した。以下では、要点をまとめる。
(1)新合金の探索。Tsai型クラスターを含む近似結晶Zn17Sc3を出発構造として、Znを他の金属Xで数パーセント置換してZn-X-Sc系の新準結晶合金を探索した。その結果、従来から知られていたX=Mgだけでなく、貴金属X=Pd, Pt, Ag, Au、さらには遷移金属であるX=Mn, Fe, Co, Niも準結晶を安定化させることが判明した。特に、X=Pd, Ag, Fe, Co, Niにおいては7〜10at%の置換で準結晶が安定相として形成された。この結果は、近似結晶を出発点とた新合金探索法の有効性を示すばかりでなく、新型準結晶の普遍的存在を示すものである。Tsai型近似結晶が、Be, Ga, Cu, Zn, Ag, In, Cdなどの多様な金属を基とする合金で形成される事を考慮すると、さらなる未発見合金がねむっているものと予想される。
(2)Tsai型準結晶形成のための条件。今までに見いだされたTsai型準結晶の合金には次の共通点が見られる。すなわち、平均価数2のsp金属ベースの合金で、d電子を1個または2個持つ遷移金属を8〜16at%程度含むという点で類似している。しかも、合金全体としての平均価電子濃度はe/a=2.00〜2.16とほぼ同じ値を示す。これは、このタイプの準結晶がHume-Rothery則を満たす電子化合物であることを示している。
(3)Zn-Fe-Sc準結晶の特異な磁性。従来からFeなどの遷移金属を含む安定な正20面体準結晶、例えばAl-Cu-Fe、は知られていたが、強い磁性は示さなかった。本研究で見いだされたZn-Fe-Sc準結晶は、Fe1原子当たり約5.1μBの磁気モーメントを持つことが判明した。しかも、Tf=7.2Kでスピングラス相を生じるので、準結晶における磁気モーメント発現条件と準結晶の磁性を研究するのに極めて適していると言える。来年度の研究において、さらに詳細な研究を行う計画である。

研究成果

• [文献書誌] S.Kashimoto, R.Maezawa, Y.Kasano, T.Mitani, T.Ishimasa: "A new series of icosahedral quasicrystals in Zn-M-Sc(M=Ag, Au, Pd, Pt)alloys"Jpn.J.Appl.Phys.. 42. L1268-L1271 (2003)
• [文献書誌] T.Ishimasa, S.Kashimoto, R.Maezawa: "Search and Synthesis of New Family of Quasicrystals"MRS Proceedings. 805. LL1.1.1-LL1.1.12 (2004)
• [文献書誌] 石政 勉: "準結晶の新しい合金系"金属. 74. 20-23 (2004)
• [文献書誌] T.Ishimasa, H.Kaneko, Y.Kaneko: "New group of stable icosahedral quasicrystals - structural properties and formation conditions"J.Non-Crys.Solids. 334-335. 1-7 (2004)
• [文献書誌] Y.kaneko, R.Maezawa, T.Ishimasa: "Formation condition of stable Cu-Ga-Mg-Sc icosahedral quasicrystal"J.Non-Crys.Solids. 334-335. 8-11 (2004)
• [文献書誌] T.Ishimasa, K.Oyamada, Y.ArichiKa, E.Nishibori, M.Takata, M.Sakata, K.kato: "Structure analysis of Zn-Mg-Ho icosahedral quasicrystal by modified Rietveld method using ellipsoid and sphere windows"J.Non-Crys.Solids. 334-335. 167-172 (2004)
• [文献書誌] S.Motomura, Y.Kaneko, S.Kashimoto, H.Nakano, T.Ishimasa, S.Matsuo: "Magnetic and electrical properties of Zn-Mg-Sc icosahedral quasicrystals"J.Non-Crys.Solids. 334-335. 393-397 (2004)
• [文献書誌] H.Yamada, S.Motomura, R.Maezawa, H.Nakano, T.shimasa, S.Matsuo: "Magnetic and electrical properties of Cu-Ga-Mg-Sc icosahedral quasicrystals"J.Noii-Crys.Solids. 334-335. 398-402 (2004)
• [文献書誌] S.Matsuo, S.Fujiwara, H.Nakano, T.Ishimasa: "Long range antiferromagnetic order in Ising model simulations in two-dimensional Penrose lattice"J.Non-Crys.Solids. 334-335. 421-426 (2004)
• [文献書誌] R.Maezawa, S.Kashimoto, T.Ishimasa: "Icosahedral quasicrystals in Zn-T-Sc (T=Mn, Fe, Co, Ni) alloys"Phil. Mag.Lett.. 84. 207-214 (2004)
• [文献書誌] S.Kashimoto, S.Motomura, R.Maezawa, S.Matsuo, T.Ishimasa: "Magnetic property of stable icosahedral quasicrystal in Zn-Fe-Sc"Jpn.J.Appl.Phys.. (印刷中). (2004)