研究概要 |
新規な磁性半導体として期待されるヘマタイト-イルメナイト固溶体(Fe_<2-x>Ti_xO_3)は,Fe^<3+>とFe^<2+>の混合原子価状態にあり,その固溶体薄膜が優れた磁性半導体特性を示すためには,Fe/Ti配置の規則化によるフェリ磁性状態の実現と同時に,厳密な酸素量制御によるFeイオンの原子価制御が必要である。そのため,固溶体薄膜の作製にあたっては,成膜時の酸素分圧の厳密な制御が要求されている。そこで本研究では,まず超高真空仕様(到達真空度10^<-7>Pa以下)のヘリコンスパッタ装置を使用し,FeTiO_3焼結体ターゲットと純Arガスの組み合せでスパッタ成膜を行ったところ,同一条件(基板温度・真空度・RF出力)下で成膜したにもかかわらず,成長した薄膜の構造や酸素量に大きなばらつきが見られた。質量分析計を使用し,成膜時の雰囲気ガス成分を詳細に分析した結果,その原因は,FeTiO_3焼結体ターゲットに含まれる酸素量がスパッタを繰り返すことにより変化し,成膜中の酸素分圧が一定しないためであることが判明した。 次に,FeTi合金ターゲットを使用し,成膜時に微量のO_2ガスを導入する反応性スパッタ法をもちいて,α-Al_2O_3(001)単結晶基板上にFe_<2-x>Ti_xO_3薄膜を作製することを試みた。その結果,基板温度600℃以上,酸素濃度1.4〜2.0%の雰囲気下において,結晶性,化学量論性に優れたエピタキシャルFe_<2-x>Ti_xO_3薄膜を再現性良く作製することに成功し,その薄膜はフェリ磁性半導体となった。しかし,Fe/Ti配置の規則化はまだ不十分であり,完全な規則構造,すなわち磁性半導体伝導電子の完全スピン偏極を実現する目的で,現在,FeとFeTiの人工格子化によるFe_<2-x>Ti_xO_3薄膜の完全規則構造化をめざしている。
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