研究概要 |
ヘマタイト-イルメナイト固溶体(Fe_<2-x>Ti_xO_3)は,その両端組成α-Fe_2O_3とFeTiO_3がいずれも反強磁性絶縁体であるにもかかわらず中間組成領域でフェリ磁性半導体となることから,新規かつ環境に優しい磁性半導体材料として期待されている。固溶体がフェリ磁性を示す組成範囲は0.4<x<1.0であり,x=0.8の組成において飽和磁化は極大値約600emu/cm^3をとることが知られている。しかし,固溶体のキュリー温度(Tc)はxの増加とともに単調に減少し,x=0.4で600Kと室温以上であったTcは,x=0.8では230Kと室温以下に低下してしまう。そこで本研究では,高いネール温度をもったα-Fe_2O_3からの交換結合を利用してフェリ磁性相Fe_<1.8>Ti_<0.2>O_3のTcを上昇させることを試み,すぐれた磁気特性を示す室温磁性半導体の実現をはかった。 α-Fe_2O_3/Fe_<1.8>Ti_<0.2>O_3二層膜作製は,Fe金属ターゲット及びFeTi合金ターゲットを使用した2元反応性スパッタ法により,α-Al_2O_3(001)単結晶基板上で実施した。α-Fe_2O_3相とFe_<1.8>Ti_<0.2>O_3相では,成膜時の最適酸素分圧が大きく異なっている。そこで基板温度を550℃に固定し,まず,それぞれの相の最適酸素分圧を決定した。得られた最適成膜条件を用いてα-Fe_2O_3/Fe_<1.8>Ti_<0.2>O_3二層膜の作製し,X線回折測定を行なったところ期待通りの構造をもつ二層膜が生成していることが確認でき,またその薄膜の磁化測定を実施したところ,室温でフェリ磁性を示した。しかし,その磁化の大きさは,期待された値より非常に小さく,固溶体層におけるFe/Ti規則構造の発達が不十分であることがわかった。現在,その規則度を向上させるべく,成膜条件のさらなる最適化を試みている。
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