本研究は、固体表面-生体関連物質間相互作用の表面分光学および原子間力顕微鏡(AFM)による評価を通じ、生体関連物質の基板への固定化技術を確立することを目的とした。研究により以下の結果を得た。 1.あらかじめ島状Ag薄膜を真空蒸着したATRプリズム底面上にポリビニルアルコール(PVA)をコートし、その表面に生体関連物質としてアデノシン水溶液を滴下・乾燥させると、分子(アデノシン)-基板(PVA)間に水素結合が生ずることを多重反射ATR赤外測定により明らかにした。このPVA-アデノシン間の水素結合を利用し、あらかじめアデノシンを吸着させたPVA転写ローラーによる島状Ag-Si基板への転写について検討した。その結果アデノシン分子が基板上へ転写可能であることが表面増強ラマン散乱(SERS)測定により示された。しかしながらローラー転写速度やローラー加重等の転写ファクターについては明確な条件を示すことが現在できていない。 2.分子の基板表面への転写法として"圧着法"を考案しその有用性について検討した。すなわち、溶媒を用いずに試料粉末を直接基板に対して分散させ、その上からガラス基板を介して0〜1.0MPaの範囲で加圧することにより分子を吸着・固定化させることを試みた。試料分子としてパラニトロ安息香酸を用いると、基板金属(Ag)に対してイオン化して吸着するが、圧力を加えない場合に比べ圧着圧力0.6Mpaにおいてラマン散乱強度が4倍程度上昇した。一方アデノシン分子の場合は、圧力によるスペクトル強度の変化はほとんど見られない。すなわち圧着法では、基板金属-分子間相互作用の度合いにより基板固定化に好都合な分子と圧力の影響をほとんど受けない分子があることがわかった。
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