研究概要 |
地球環境問題でのエネルギー有効利用やエレクトロニクス産業の高機能化の観点から熱電発電・冷却に対する期待が高まり,熱電材料に再び注目が集まっている.熱電材料の特性は,ゼーベック係数,電気伝導度,熱伝導度をα,σ,κ,とすると,性能指数Z=α^2σ/κあるいはこれに温度Tを乗じた無次元性能指数ZTで表される.これらの値が大きいほど熱【double arrow】電気の変換効率が高く,ZT=1が実用化の目安とされている.我々は最近,Reシリサイドが2元系プロトタイプとしてZT=1を超える優れた熱電特性を示すことを世界に先駆けて発見した.本研究の目的は,我々が最近発見したReシリサイドの熱電特性の発現機構を究明するとともに,高密度のSi空孔を含む特異な結晶構造に着目して,価電子制御(多元化)の観点から空孔密度,インコメンシュレート相などの微細構造を制御して,実用化に耐え得るさらなる特性向上を図ることにある.Reシリサイドは[010]方向にSi空孔が1次元配列した特異な結晶構造(空間群Cm,ピアソン記号mC44)をもつ.この[010]方向とそれに垂直な[001]方向で電気伝導機構が異なり,それぞれpおよびn型伝導を示す.無次元性能指数は[001]方向で特に優れ,800KでZT=0.75を示す.Reより価電子数の少ないMo, Wを添加すると、a軸方向の原子配列に乱れが生じ,インコメンシュレート相が形成される.添加量増加に従い電気伝導度は増大し,熱伝導度は減少するものの,ゼーベック係数が最大となるのが2%程度のMo添加で得られ,[001]方向で得られた無次元性能指数は800KでZT=0.85(n型)であり,2元系Reシリサイドをはるかに凌駕する.Reより価電子数の多いFe, Ruを添加するとMo, Wの添加時とは異なるインコメンシュレート相が形成されるが,無次元性能指数に目立った改善は見られなかった.これに対しSiをAlで置換すると,結晶構造,微細組織に大きな変化は無いものの,[010]方向の無次元性能指数に大きな改善が見られ,500KでZT=0.80(p型)を示した.
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