研究概要 |
(1)補助を受けて導入したマルチチャンネル分光器等を用い,コールドクルーシブル放射率測定システムを構成した。本装置により,現在までにCu,Ag,Auの純金属の放射率を測定し,その固液変態に伴う放射率の変化を明らかにした。また,相変態によっても放射率が不変である波長領域があることを明らかにした。 (2)Si中に溶解したSbが放射率に及ぼす影響を調べるため,実際の単結晶作製プロセスにおいて生じたSbを含有するポットスクラップシリコンと不純物濃度の極めて低いFZシリコンの放射率を測定・比較し,その間には有意差がないことを確認した。また,Siは固体では半導体的な,液体では金属的な性質を示すことから,固体シリコンには束縛電子モデルを,液体シリコンには自由電子モデルを適用し,Siの放射率を計算によって求めた。さらに,このモデルを用いてSbを900ppm含有したSiの放射率を求めたところ,実験結果と同様,純粋なSiの放射率と有意な差は認められなかった。 (3)抵抗炉とエリプソメータを組み合わせた高温用エリプソメータを用い,固体金属表面の複素屈折率を測定し,この値から放射率を求めるという方法を構築した。この方法によりCu-Ni合金の放射率を873Kから各組成の固相線温度までの温度範囲で測定した。長波長域において放射率と電気抵抗率の関係を表すHagen-Rubensの法則により求めた放射率値は,実験値の組成及び温度依存性をよく表したことから,この合金の熱放射は,主に自由電子-フォノン散乱に支配されていることがわかった。しかし,計算により得られた放射率の絶対値は,実験値とわずかに異なった。この差は,その放射にはフェルミ面近傍の自由電子だけでなく,dバンドから励起・緩和する内殻電子も寄与していることを示唆している。 (4)購入したマルチチャンネル分光器と二色放射温度計を組み合わせることにより,任意の温度で放射率を測定できるシステムを開発中である。放射温度計の放射率比の校正は物質の相転移点で行う予定である。これにより,合金の放射率の温度依存性と組成依存性以外に,波長依存性をも明らかにすることができる。
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