研究概要 |
HVOF溶射は低温・高速フレームに特徴があるため,基材へ衝突する直前の溶滴温度がプラズマ溶射より低く,フレーム中の溶滴飛行(反応)時間が短い.HVOF溶射におけるインプロセス反応進行のポイントは,発熱反応による飛行溶滴温度と積層スプラットの温度上昇にある.そこで,インプロセス発熱反応によって溶滴温度の上昇を図ることを目的に,無電解NiめっきをしたAl-40wt%Si-10wt%Mg合金粉末に,水ガラスによってSiO_2微粒子を付着させ,造粒紛末を調整した.HVOF溶射フレーム中でインプロセス反応が可能な溶滴飛行時間は,約2msと非常に短いことから,NiとAl間の高速反応はインプロセスでも進行する.しかし,SiO_2は未反応のまま溶射粒子内部に存在する.発熱反応の効果を確かめるため,飛行中の溶滴温度をその場測定した結果,発熱反応の進行が僅かなため有意な温度差は認められない.SiO_2/Ni/Al-Si-Mg系造粒粉末を用いてHVOF溶射皮膜を形成した結果,その皮膜はMgAl_2O_4,NiAl_3,Mg._2SiおよびAl-Siマトリツクスからなる複合材料となる.皮膜形成時の基材中心温度は,Al-Si-Mg単体より複合造粒粉末の方が基材温度の上昇が早く,最高到達温度も高くなる.これは,飛行過程の発熱反応による溶滴温度の上昇ではなく,スプラット堆積過程の発熱反応の進行によるものである.また,この溶射皮膜の硬さは,Al-Si-Mg合金粉末を用いた皮膜よりも僅かに硬くなる.しかし,複合則から求めた硬さに比べると低く,インプロセス反応は完全ではない.HVOF溶射における反応の促進には,基材予熱などの対策が必要である.
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