研究概要 |
【背景および目的】タンパク質は、環境条件に応じて不活性なアグリゲーションや線維構造を形成し、それらが疾患の原因にもなる。現在まで、アグリゲーションを抑制する多くの方法が開発されてきたが、なかでも小分子であるアルギニンの添加は最もよく用いられている。しかし、高濃度(500mM程度)の添加が必要なことや、限られた種類のタンパク質にのみ効果があるなど欠点も残る。ここでは、凝集抑制効果の高い新たな小分子の探索を目的とした。 【方法】ニワトリリゾチームをモデルタンパク質に用いた。0.2mg/mlリゾチームに50mMリン酸緩衝液(pH6.5)と任意の濃度の小分子を添加した溶液を98℃に加熱してアグリゲーションを形成させた(熱処理法)。その後、遠心上清のタンパク質量および残存活性を調べた。添加剤として、15種類のアミノ酸およびアミノ酸エステル類、ポリアミン類、有機溶媒、変性剤、塩を用いた。 【結果・考察】熱処理法を用いて既知の抑制剤の添加剤を比較したところ、アルギニンの抑制効果が最も高く、400mMの添加量で凝集を100%抑制した。アルギニンのカルボキシル基をエステル化したアルギニンメチルエステルの抑制効果を調べたところ30mMの添加量で100%抑制した。残存活性1%以下までに低下する加熱条件に100mMのアルギニンメチルエステルを添加すると90%活性が残った。グリシンエチルエステルも同程度の抑制効果を示したので、アグリゲーション抑制にはエステル基とアミノ基が重要だと考えた。次に、アミノ基とアルキル基を骨格に持つポリアミンを添加し、凝集抑制効果を調べた。ポリアミン類であるプトレスシンおよびスペルミジン、スペルミンは、100mMの添加量でそれぞれ68%および,100%,100%抑制し、活性はそれぞれ13%および,33%,28%残存した。スペルミジンとスペルミンの抑制効果や残存活性はほぼ等しかった。また、アルギニンによる凝集抑制効果はプトレスシンとほぼ等しかったが、残存活性で比べるとアルギニンは1/3程度であった。
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