研究概要 |
大腸菌の遺伝子欠損株(pgi,zwf,gnd,pck,ppc,pykF,lpdAなどの破壊株)を、グルコースを炭素源とした合成培地を用いて、回分および連続培養し、RT-PCRによる遺伝子発現、2次元電気泳動およびTOF-MSによるタンパク質発現を調べた。また、酵素活性の測定、キャピラリー電気泳動および酵素法を利用した細胞内代謝物濃度の測定を行ない、NMRおよびGC-MSを利用して代謝流束分布を求めた。さらに、これらの情報を統合的に解析し,大腸菌細胞の代謝調節制御機構を定量的に明らかにした。NMRの測定データから、pgi欠損株では、Ppc(PEP calboxylase)による補充反応で生成されるOAA(oxaloacetate)は少なく、一部はグリオキシル酸経路によって生成されていることがわかった。また、流束比解析から、グルコースを炭素源とした場合、ED(Entner-Doudoroff)経路は僅かに活性化されていることがわかった。次に,pgi欠損株では、非酸化的PP(pentose phosphate)経路のみが活性化され、酸化的PP経路は活性化されていないことがわかった。特に,グルコース律速条件下では、zwfを破壊しても、炭素の主要代謝にはほとんど影響を与えないことがわかった。また、pykF破壊株では、PEPからOAAに至る、Ppc経路の流束が41%と、野性株の17%に比べて、著しく増加していることがわかった。また、逆反応のPckの流束も高くなっていることがわかった。さらに、解糖系の流束が、野性株に比べて、pykF破壊株では著しく低下していることがわかった。これは、PEPの蓄積によって、調節酵素のPfk(phosphofructokinase)が阻害され,流束が低下したものと考えられる。一方、酸化的PP経路の流束は、野性株に比べて、pykF破壊株では、著しく増加していることがわかった。これは、pykF破壊株では、Pfkが阻害され、その結果、G6P(glucose6-phosphate)が蓄積し、この分岐点での流束を、酸化的PP経路の方向に向けたものと考えられる。
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