研究概要 |
本年度は、都市圏を代表する試料として大気浮遊粒子に着目し、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)及び誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)を用いて、大気浮遊粒子の主成分から超微量元素までの多元素定量法の確立を目指した。 大気浮遊粒子試料を多量に捕集することは困難であるため、少量試料からの多数の元素を分析する方法の開発を試みた。まず試料約50mgを硝酸/フッ化水素酸/過塩素酸を用いる酸分解法により溶液化し、主成分元素はICP-AESで、微量成分元素はICP-MSで定量した。また、白金族元素に関しては、Te共沈によりマトリックス元素を除去した後、ICP-MSで定量した。 名古屋市都心部、郊外部、湾岸部の道路脇から捕集した粉塵試料(計10試料)を分析した結果、白金族元素6元素を含む約50元素の定量値を得ることができた。この結果をもとに、Alで規格化した相対濃度を求め、地殻中に存在する各元素の相対濃度と比較した濃縮係数を算出して、元素の分布や分配について考察した。Si, Na, Mg, Caの濃縮係数はいずれの試料についてもほぼ1であり、ほとんどが自然起因であるのに対し、Cr, Zn, Mo, Cd, Sbの濃縮係数は地殻と比べて10-100倍濃縮されていた。したがって、これらの元素は人為的に環境中に排出され、粉塵中に存在していたと考えられる。さらに、本来微量にしか存在しない白金族元素のうち、特にPt, Pdの濃縮係数が10以上であり、近年これらの元素が自動車の3元触媒として大量に使用されて大気環境中に排出された結果を反映するものと考えられる。また、採取地域ごとに比較すると、特に湾岸域で、Cr, Mo, Zn, Cdなど多くの人為起源元素の濃縮係数が他の地域に比べて高かった。この結果は、試料を採取した湾岸域が工業地帯に近接していることを反映したものと考えられる。
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