イオン伝導性の材料は、電池、キャパシター、燃料電池、太陽電池など電気エネルギーを蓄えたり、発電したりするデバイスなど電気化学デバイス作成のために必要不可欠である。最近、医療分野、マイクロマシーン、ナノテクノロジーに適用可能なアクチュエーターにもイオン伝導性材料が用いられている。これまでイオン伝導性の材料としては、電解質溶液が主に用いられてきた。例えば、カーバッテリーには硫酸の水溶液が使われているし、携帯電話に搭載されているリチウムイオン電池には、リチウム塩の可燃性有機溶媒溶液が用いられている。このために、電気化学デバイスの多くは揮発性の液体デバイスでありその不揮発化・不燃化・固体化は長年の課題であり多くの研究が重ねられてきた。申請者は、イオン性液体中でのビニルモノマーのその場重合により得られる、イオン性液体が高分子網目の中に相溶した新しい高分子固体電解質「イオンゲル」を提唱し、機能の創り込みの化学を展開した。 具体的には、イオン性液体およびイオンゲルに関し、以下の3点に絞り研究を展開した。 1)イオン性液体およびイオンゲル中のイオンダイナミックスの解明 2)非水条件下、100℃以上の温度域で安定なプロトン伝導性イオン性液体とそのイオンゲルの創製 3)イオンと電子の両者が可動な混合伝導性イオン性液体とそのイオンゲルの創製 すなわちイオン性液体とイオンゲルの導電機構を明らかにすると同時に、これにプロトン伝導性、混合伝導性といった機能を作り込む化学の開拓を行った。1)に関しては、磁場勾配NMR法を導入することにより、イオン性液体中のイオンダイナミックスに関する情報を蓄積し、イオン性液体のionicityがこのNMR測定と導電率測定から評価できるとの提案に至った。2)に関しては、プレンステッド酸・塩基からなるイオン性液体が無水条件下かつ100℃以上の温度域で高いプロトン伝導性を示し、これはvehicle機構とGrotthuss機構の協奏によって発現していることを世界に先駆けて発見した。この結果はACS機関誌でも紹介された。さらに3)に関しては、ヨウ素レドックス対がイオン性液体中でのみ、交換反応(transfer diffusion)の寄与による早い電子輸送特性を有することを明らかにした。
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