研究概要 |
本研究課題では環境に調和し、穏和な条件で進行する金属Mgまたは電気化学的な手法による炭素-炭素結合形成反応に重点を置いた新反応の開発を検討している。本年度はスチレン及びメタクリル酸エステルをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中、酸無水物もしくはアシルイミダゾール共存下、亜鉛陽陰極を用いて電極還元するとオレフィンのビシナル位に二重アシル化反応が収率よく進行することを見いだした。芳香環に置換基を持つものとしてはp-メトキシ基やp-カルボメトキシ基のような強い電子供与基や電子吸引基を有する場合は良い結果は得られないが、その他の置換基では結果は良好であった。一方、スチレンのオレフィンの置換基についてはα位にアルキル基がある場合は反応が進行するものの、β位にアルキル基があるものでは反応が起こらず、対照的な結果を示した。このことはβ位にアルキルを有するスチレン類の還元電位がα位にアルキルを有するスチレン類と比べて一段と還元されにくい領域にあるためと考えられる。また、同様な条件下、酸塩化物を用いたアシル化反応は起こらないことを確認したことから、本反応はスチレン類の還元により反応が開始されていることが明らかとなった。さらにアシルイミダゾールによるアシル化反応を詳細に検討した結果、カルボメトキシイミダゾールを用いれば2つのエステルを一気に導入することができ、ワンポットでコハク酸誘導体を高収率で合成できることを見いだした。同様にメタクリル酸エステルのアシル化反応を検討した結果、エステルのα位とβ位に2つのアシル基を導入でき、収率良く、1,4-ジケトンが得られることが判明した。従来の金属または電極からの電子移動型アシル化反応では炭素-炭素二重アシル化が起こる例は少なく、これまでの実験結果を総合すると還元電位と発生するアニオンラジカル種の安定性が大きな要因であることが推察される。
|