自然界に存在する核酸・たんぱく質などの天然高分子の多くは、分子間の水素結合などにより、安定ならせん構造を形成することが知られている。一方、多くの合成高分子では、主鎖の立体規則性が高い場合、固体状態ではらせん構造をとり得るが、溶液状態ではそのらせん構造を保持することは困難であり、多くの場合ランダムなコンフォメーションの状態で存在する。しかし、側鎖に嵩高い置換基を有するポリメタクリル酸エステルは、側鎖同士の立体反発により、溶液中でも安定にらせん構造を保持できる。本研究では、N-(トリフェニルメチル)メタクリルアミド(TrMAM)などのかさ高い置換基を有するメタクリルアミド誘導体をキラルな添加剤存在下等の条件でラジカル重合することにより、方向巻のらせん構造を有するポリマーの合成を目的とした。 側鎖に嵩高い置換基を有するN-(トリフェニルメチル)メタクリルアミド誘導体のラジカル重合により得られたポリマーはほぼ100%のイソタクチシチーを有していることを確認した。また、N-[ジ(4-ブチルフェニル)フェニルメチル]メタクリルアミド(DBuTrMAM)の(+)-メントールと(-)-メントール中で得られたポリマーはそれぞれ(-)および(+)の旋光性を示し、さらに、ポリマー溶液の円偏光二色性(CD)スペクトルの測定では不斉構造に基づく吸収が観測された。これらの結果から、得られたポリマーは、巻き方向が一方に偏ったらせん構造を有しているものと推測される。また、光学活性なメントール中で合成した溶媒に不溶なポリ(TrMAM)のCDスペクトルをヌジョール法により測定したところ、ポリ(DBuTrMAM)と同様にCDピークが観測され、らせん選択重合が起こっていることが示唆された。TrMAMはメタノール/クロロホルム中、35℃で一週間経っても、加溶媒分解が起きないことから、今後、アルコール類に対しても高い耐溶媒特性を示すHPLC用キラル固定相としての応用が期待される。
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