本年度は、ポリ乳酸への分岐点の導入および分岐構造化による物性の制御を目的として、分岐構造を有する乳酸共重合体の合成を試みた。 まず、側鎖にヒドロキシル基を有するセリンを含む乳酸・デプシペプチド・ランダム共重合体poly[LA-r-(Glc-Ser)]をマクロイニシエーターとしてスズ系触媒を用いてラクチドをグラフト重合し、多数の分岐を有する櫛形PLA(comb-PLA)の合成に成功した。 得られたcomb-PLAが分岐構造を有していることは、^1H NMR測定などに加えて、多角度光散乱分光光度計検出サイズ排除クロマトグラフィーの結果より示唆された。示差走査型熱量分析装置による熱分析を行った結果、得られたcomb-PLAは、直鎖PLLAと比較して、Tg、TmおよびΔHが低下・減少し、結晶性が低下することがわかった。 また、生理的条件下における生分解性についても検討を加えた。各ポリマーからキャスト膜を調製し、pH7.0のリン酸緩衝生理食塩水中に浸漬し、所定時間後にSEC測定により分子量減少率を測定した。直鎖PLLAは4週間ではほとんど分解が進行しなかったのに対し、comb-PLAでは4週間で50〜80%の分子量低下が認められた。 さらに、動的粘弾性測定を行ったところ、comb-PLAとPLLAを1:4の重量比でブレンドして調製したフィルムはTg以下の温度では、貯蔵弾性率(E')および損失弾性率(E")ともにPLLAよりも大きい値を示し、分岐構造の導入がポリ乳酸への柔軟性の賦与に有効であることが示唆された。 このように、結晶性高分子であるPLLAに分岐構造を導入し、その分子形態を制御することにより、Tg、Tmおよび結晶性を低下させ、分解速度と力学的性質を改変できることが示された。
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