研究概要 |
超薄切片による透過型電子顕微鏡(TEM)法はナノメートルスケールの構造の観察手段として重要な役割を果たして来た。しかし、TEM写真で見られるものは超薄切片試料中に内包された構造の投射図に過ぎず、このような2次元像から元の3次元構造を推測するには経験と洞察力を必要とする。とはいえ構造が複雑になればそれにも限界があり、データを見る人の想像力に左右されない絶対的な3次元構造の観祭方法が必要である。エレクトロントモグラフィー(TEMT)は、MRIやX線CT(コンピュータトモグラフイー)の医療における輝かしい成功に触発され、このような3次元ナノ構造観察の要望に応えるべく開発された技術である。本研究はブロック共重合体のミクロ相分離構造や高分子結晶ラメラ構造などナノメートルスケールの高分子集合体構造をTEMTにより3次元観察し、2次元像からはわからなかった構造を明らかにするとともに、高分子ナノ3次元構造観察のためのTEMTの技術を発展させることを目的とした。平成14年度はアテネ大学N. Hadjichristidis教授から提供されたポリスチレン(PS)、ポリイソプレン(PI)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)ポリ2ビニルピリジン(P2VP)の4成分からなる線状テトラブロック共重合体およびPS, PI, PDMSの3成分からなる星形トリブロック共重合体試料を用いた。TEMTにより前者はP2VPを軸にPDMSとPIがその周囲を取り囲んだ3相同軸シリンダー構造がPSマトリックス中に六方充填したミクロ相分離構造を示すことができた。後者については、PS, PI, PDMS各相がそれぞれ複雑な形状の断面を持つシリンダー状ミクロ相分離構造が求まった。この構造はDoteraによるコンピユータシミュレーションで得られたモデルとよく一致する。
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