超流動ヘリウム(He II)蒸発現象の定量的扱いにおいて重要な、自由界面を横切る方向の巨視的エネルギーモード変換について研究を行った。対象としてこの種のエネルギーモード変換を含む幾つかの現象を選んでが、その研究現状と成果について以下に記す。 i)熱パルスのHe II自由界面への斜め入射による蒸発及び全反射現象:レーザーホログラフィー法による可視化技術を確立したところで、パルスレーザーが故障し来年度へ持ち越すことにした。剛体壁における熱パルスの斜め入射・反射については、正規反射条件での可視化観測が行われた。 ii)He II沸騰時のエネルギーバランスの計測:サイレント膜沸騰からノイジー膜沸騰への不安定遷移が調べられ、また温度・圧力・熱流束3次元空間における両沸騰モードの発現領域マップが作成された。特にλ点近傍における分布の詳細が明らかにされ、ここで弱サブクール沸騰とサイレント沸騰が合流する、つまり両者が同一原理による膜沸騰であることが明らかにされた。また高熱流束条件下でのノイジー膜沸騰の消失が発見された。また、ノイジー膜沸騰とサブクール膜沸騰の境界が、厳密にはλ圧力線と一致せずに若干高圧力側へシフトする、またそのシフトの度合いは、熱流束と共に大きくなることも見出された。 iii)超流動衝撃波管における気体力学衝撃波のHe II自由界面への入射の際に現れる、気体中の反射衝撃波、He II中の透過圧縮衝撃波と熱衝撃波間のエネルギバランスについて調べた。入射衝撃波が強い場合には、界面近傍のHe II中に高密度の量子化渦が発生し、これが熱エネルギを散逸させる為熱衝撃波が誘起されないことが見出された。その際の熱エネルギは渦密度が高い界面近傍に温度境界層を形成し拡散的に散逸して行くことが確かめられた。 iv)ベンチュリ流路におけるHe IIのキャビテーション流れ:キャビテーションにおける気泡の流動を調べるべくPIV法が成功裡に開発され、気泡速度分布が得られた。その結果、予期以上に気泡-液間の速度スリップが大きいことが分かった。また広い流速範囲にわたる圧力損失・温度降下も計測され、この点からHe IとHe IIのキャビテーション流れの特徴が明確になった。特に温度計測からは、λ相変化、超熱伝導による潜熱供給、について明らかにができた。
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