ソーラープローブとは、太陽コロナ内部における太陽風の加速および加熱メカニズムを"その場観測"によって明らかにするための人工衛星である。コロナ内部に突入するため、衛星には太陽からの強い輻射加熱に対する熱防御システムが必要である。前年度行われた研究により、熱防御システムとしては、複数枚のグラファイト製円盤状シールドを衛星本体前方に設置する多重シールド方式が耐熱性、低損耗性の点で優れていることが明らかになっている。今年度は、1)高温のグラファイトから発生する昇華ガスの振る舞いを希薄気体力学のモンテカルロ法により解析する、2)希薄プラズマである太陽風中での強輻射環境を実験的に模擬する準備として、レーザー加熱の基礎実験と誘導結合型のプラズマトーチ開発を行う、ことを目的とし、以下の結果を得た。 ・シールドから発生する昇華ガスは、太陽風観測の障害となる。解析は、衛星の大きさと、衛星周りに広がる昇華ガス雲の大きさの2種類のスケールについて行った。前者では、衛星近傍の昇華ガス密度を明らかにし、観測機器は高密度域を避けて配置されなければならないことを示した。後者では、太陽風粒子が昇華ガス粒子との衝突により運動エネルギーを失うため、衛星で観測される太陽風の性質は、衛星がない自由流のそれと異なることが見い出された。その影響は、シールドからの全昇華ガス発生率が高いほど、また、太陽風密度が高いほど顕著である。このことはミッションの成立性に係る重要な知見である。 ・炭酸ガスレーザーによりコロナ内部相当である平方メートル当りメガワット級の輻射加熱実験を行った。グラファイト薄板の加熱実験で、気泡状の凹凸の発生など損耗に関する現象が見い出された。 ・高周波電源を用いた誘導結合型プラズマトーチを製作し、分光計測でその基礎特性を明らかにした。また、トーチ内流れを解析する計算コードを開発し、実験結果と妥当な一致をみた。
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