本研究では主に非フッ素系の高分子材料であるポリエチレン及びポリイミド表面に並進エネルギーを有する原子状フッ素及び原子状酸素ビームを照射することで、その表面を直接的にフッ素化及び酸化し、宇宙環境におけるコンタミネーション付着を抑制することを目的とした表面改質を行った。そのために表面組成をXPS測定により、また表面エネルギーを接触角で評価するとともに、AFMを用いて表面形態の観察及び考察を行った。その結果、 1.XPSの測定結果から、原子状フッ素ビーム照射によりポリイミド及びポリエチレン表面がフッ素化され、C-F結合、C-F_2結合、C-F_3結合が形成されることが確認された。ポリイミドにおいては、原子状フッ素を照射し始めるとすぐにC-F結合が形成され始め、フルエンス6.5〜13×10^<18>atoms/cm^2の間でC-F_2結合が、1.3〜2.6×10^<19>atoms/cm^2の間でC-F_3結合が形成されはじめることが確認された。またポリエチレンにおいてはフルエンスが1.0〜5.0×10^<17>atoms/cm^2の間でC-F及びC-F_2結合が、5.0〜10.0×10^<17>atoms/cm^2の間でC-F_3結合が形成され始めることが確認された。 2.原子状フッ素ビームによって、ポリイミドと純水との接触角が前進76度からおよそ115度、最大123度まで向上し、ポリエチレンと純水の接触角は94度から120度、最大135度まで向上させることが可能であることが示された。 3.原子状フッ素ビームを用いることで、良好な親水・撥水パターンをポリイミド表面上に作成することができた。非常に明確なパターニングが可能であることから、フッ素ビーム照射によりポリイミド表面のコンタミネーションを部分的に抑制できることが実証された。 以上より、原子ビームによるポリイミドの表面フッ素化は宇宙環境におけるコンタミネーション付着抑制に有効であることが示された。
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