研究概要 |
高温、高圧、硫酸性の大気を有する金星の厚い雲の下、高度35km付近に気球を長期間浮遊させることを目的とした膨張型気球システムについての研究を行っている。新たに考案した水蒸気を浮揚ガスとする自己膨張型気球の実現を図るために必要となる気球本体技術を確立させるのが目標である。本年度は以下の知見が得られた。 1 気球皮膜材料の選定 浮遊環境である180℃,6気圧の炭酸ガス大気中における水蒸気バリア性能が気球のライフタイムを左右する。この気球皮膜の外側耐熱気密層に使用可能なフィルムの候補として,ポリイミド、液晶ポリマー、PBOなど多くの材料を比較検討した結果,液晶ポリマーの1つであるベクトラが最適であるとみなされた。 2 高温水蒸気のバリア性能の直接測定法の確立 高温水蒸気の透過度測定法として,新たに高温恒温槽と精密秤を用いた直接計測法を確立した。この方法を用いて,ベクトラフィルムを熱接着して作成した袋について水蒸気透過度を測定した結果,このフィルム単体では目標とするガスバリア性能が得られないことがわかった。 3 高温水蒸気バリア性能の向上策 所定のガスバリア性能を得るために,気密層の内外をコーティングすることにより多層構造にすることを考える。コーティング手段として,アルミ蒸着,珪素酸化物蒸着,ダイヤモンドライクカーボン,スパッタ,化学メッキ等を比較検討し,それぞれの手段について液晶ポリマーへの加工性,コーティング層の密着性について,試作による検討が行われた。ダイヤモンドライクカーボンや珪素酸化物蒸着は密着性が良いが,アルミ蒸着は密着性があまり良くないことがわかった。また,単体コーティングした試作品について水蒸気透過度を測定し,液晶ポリマー単体と比較した結果,数倍から十数倍の性能が得られた。さらに,複数の方式を用いて多層にする方法を検討した。
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