研究概要 |
牡蠣,帆立て貝,真珠養殖に使用されるアコヤ貝などの貝殻は,一部セメント製造に利用されているものの,そのほとんどは廃棄処理も困難で,海岸に捨てられたままになっている.本研究の目的は水熱条件下での硬化反応に着目し,これらの未利用天然炭酸カルシウム粉末を固化させ,固化反応のプロセスを解明すると同時に強靭な板状成形体とし,建築材料などへの応用研究から新規起業のための基礎資料を得ようとするものである. 研究代表者らは,300℃未満の高温高圧水溶液系の中で無機微粒子を水で混練,かつ機械的に圧搾すれば焼結体と同様に硬化反応を起こすことを見出した.ここでは,各種の貝殻粉末の水熱硬化反応を利用して,高度な成形体を作製し,未利用廃棄物の高度化リサイクルの一助とすることをおこなった.特に貝殻などの有機物を含有した生物起源の炭酸カルシウムが低温で硬化する可能性が高く,生体材料への展開,有機染料による着色,有機繊維との複合硬化による高強度固化体の合成と高度材料への応用展開の可能性を明らかにした. 生体材料への展開としては,炭酸カルシウムにリン酸イオン含有溶液を加えて水熱反応させることによって,アパタイトを主成分とするリン酸カルシウム成形体を作製することが可能であった.水熱条件の選択によっては,緻密質あるいは多孔質とすることが可能であり,一部の試料は擬似体液試験および細胞培養試験によって良好な結果を示した.現行のアパタイト材料は,900℃以上の高温で焼成したものがほとんどであり,300℃未満の温度でアパタイト成形体を得られる本方法は,エネルギーコスト的ならびに環境的に今後の有力な手段と成り得ると考えた.この材料の吸着特性を活かした環境浄化材料への発展性も見出した.
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