アブラナ科植物は、小胞子から効率的に不定胚発生を誘導することができる。この現象は形成した植物が半数体であるため育種手法として高い利用価値を持つと同時に、植物の発生・分化の理解という面からも重要である。本研究は、この小胞子から不定胚形成への転換機構を理解するために、(1)胚発生誘導初期に発現している遺伝子群の網羅的単離とそれら遺伝子の機能解析、(2)胚発生極初期から発現する胚特異的遺伝子22a1のプロモータ解析および本プロモータを利用した不定胚発生へ変換された小胞子のみを単離する実験系の開発、を目的として行い、以下の成果が得られた。 1.ナタネの小胞子胚発生初期に特異的に発現する遺伝子群をsuppression subtractive hybridization(SSH)法により単離した。無作為に選択した435のcDNAクローンをシークエンスし、重複したものを除くことで136に整理された。相同性検索の結果、これらには胚で発現することが報告されている遺伝子も数多く含まれていた。これらのうち転写因子及び機能未知な10個のcDNAクローンを選択し、リアルタイムRT-PCR法で発現解析した結果、これらは不定胚誘導時に特異的な発現パターンを示した。また、これらのクローンは受精胚形成時においても高い発現量を示した。 2.すでに単離した不定胚発生誘導時特異的プロモータP22a1のin vivoにおける発現誘導を明らかにする目的で、5'欠失プロモータシリーズにGUSをつないだコンストラクトをシロイヌナズナに導入した。その結果、P22a1の-353から-249の間にプロモータ活性に大きく影響するエンハンサー様の領域が存在することが明らかになった。次に、P22a1に先導されるsGFP遺伝子をシロイヌナズナ(Col-0)に導入した。導入遺伝子の固定系統の受精前後の生殖器官におけるsGFPの発現を共焦点レーザー顕微鏡で観察し、P22a1::sGFPの発現はナタネ小胞子胚発生時と同様、胚発生の極初期から胚および胚柄で強く誘導されることを明らかにした。
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