アブラナ科植物は、小胞子から効率的に不定胚発生を誘導することができる。この現象は形成した植物が半数体であるため育種手法として高い利用価値を持つと同時に、植物の発生・分化の理解という面からも重要である。本研究は、この小胞子から不定胚形成への転換機構を理解するために、(1)胚発生誘導初期に発現している遺伝子群の網羅的単離とそれら遺伝子の機能解析、(2)胚発生極初期から発現する胚特異的遺伝子22a1のプロモータ解析および本プロモータを利用した不定胚発生へ変換された小胞子のみを単離する実験系の開発、を目的として行い、以下の成果が得られた。 1.昨年度SSH法で単離したナタネの小胞子胚発生初期に特異的に発現する遺伝子群のうち、小胞子胚発生時における発現を確認した11遺伝子について、受精胚での発現をreal-time RT-PCR法で解析した結果、いずれも発現が確認された。これらの遺伝子について、シロイヌナズナにおける同祖遺伝子を利用したpromoter解析を行った結果、幾つかの遺伝子について、胚珠内の受精胚におけるGUSの発現が確認された。各promoterは異なる発現特性を示し、現在まで、胚形成初期のみで発現するpromoterや、胚形成を通じて発現が見られるpromoterを見出している。また、promoter解析で同様の発現パターンを示した遺伝子は、real-time RT-PCR法に基づいた不定胚の発現パターンによる単離遺伝子分類と一致する傾向が見られた。 2.P22a1::sGFPのナタネへの導入を行い、10個体の独立な形質転換体を得た。これらの形質転換体に由来する小胞子を用いた不定胚誘導過程において、形態的に識別可能となる以前の胚発生ステージ(培養開始36時間後)において蛍光顕微鏡下で肉眼により識別可能な強度の緑色蛍光が検出でき、培養開始72時間後には極めて強い発現が認められた。また、緑色蛍光がキメラ状に発現している小胞子が観察され、最初の細胞分裂以降に一部の細胞のみが胚発生能を獲得する場合があることが示唆された。以上、胚発生過程へ移行した細胞のみを初期ステージにおいて選択する実験系構築のための技術的基礎が得られた。
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